中島塾の中島です。こんにちは。
写真の子よりもう少し大きな子が2人いると思ってください。
学校からの帰り道はいつもと全く同じはずなのに、今日のボブにはやけに長く感じられた。公園でランドセルを下ろし、ブランコを四角く囲う緑色の柵に腰かけた。オレンジ色の太陽が、ビルとビルの間に隠れようとしている。
『ハァ・・・。』
ボブは大きくため息をついた。
『また今日学校でひっ算間違えちゃった・・・。ボクは本当に算数ができないんだなぁ・・・。』
『ボブはいつも大袈裟ねぇ。そんなに落ち込むくらいなら、塾で中島先生の話ちゃんと聞いとけばいいのに。中島塾は学校よりも少し先にやるじゃない。』
ガックリと肩を落とすボブの横で、エミリーはいつものように笑っていた。肩にかかった髪が、エミリーの笑いにつられて楽しそうに踊る。
『ボブ、そのときのノートあるでしょ?ちょっと見せてよ。』
『うん、これなんだけど・・・。』
ボブがおずおずと両手で差し出したノートを、エミリーは右手の親指と人差し指でひょいとつまんで受け取った。
『あれ?25×36?ボブ、あなたこれひっ算でやったの?』
『それしかないだろ、ステファニー。』
『ステファニーはあなたの妹でしょ!私はエミリー!そんなことないわよ。私ならひっ算なんかしないわ。』
『そりゃあメアリーはそろばんを習ってるから・・・。』
『まず私はメアリーじゃなくてエミリーで、クラスメイトのメアリーはそろばん習ってないから!そろばんなんか関係ないって。25×36はひっ算すべき問題じゃないもの。前に中島先生が言ってたじゃない。』
エミリーはノートをボブに返すと、木の枝を拾って地面に書き始めた。
『いい?ボブ。25=5×5よね。』
『うん、そうだね。』
『そして36=6×6。』
『うん、分かるよ。』
『つまり25×36=5×5×6×6っていうふうに崩してね・・・。』
『えっ?25×36をひっ算せずに崩しちゃうの?』
『崩しちゃうの!』
『本当の本当に崩しちゃうの?』
『本当の本当に崩しちゃうの!大丈夫、いったん崩しちゃっても、すぐに答え出すから!5×5×6×6=5×6×5×6って組み替えるのね・・・。』
『うんうん。』
『5×6=30なんだから、5×6×5×6=30×30と考えることができるわ。』
『あ!てことは・・・。』
ボブの表情がパァッと明るくなった。
『そうよ。30×30なら1秒で900って答えにたどり着くことができるの。ひっ算は必要なかったのよ、ボブ。』
『分かったよ、ボブ。』
『私の髪型はボブじゃなくてセミロング!名前はエミリーよ!バツとして私のランドセル持ちなさい。行くわよ。』
チキンのいい匂いが公園を包んでいく。公園の隣にある家で夕飯の支度が始まったようだ。タッタッと足早に歩くエミリーの後を、ボブはランドセル2つをかついで急いで追いかけた。
『待ってよー、キャサリーン。』
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